●22.ワシの「極道の妻」との出会い

 「極道の妻たち」ゆう映画を見たが、ワシの女房はあないにカッコ良くはない。
ヤクザも東映の映画のようにはいかんのと同じようなものや。
 こうゆうとみんなびっくりするが、ワシは結婚は一度しかしとらん。
そりゃあ、女遊びはやったが、女房は一人で十分や。
 浪商の野球部でハリ(張本勲)と一緒に甲子園目指したが、
ワシがあんまりゴンタしたせいもあってか、出られなくなってしもうた。
ハリは憧れのプロ野球に入れたが、ワシには声はかからん。けど野球はやりたかったんや。
 実は、これは初めてゆうが、ワシ、智弁学園の監督する前に、
丸善石油で社会人野球をやったことがあるんや。こん時に今の女房と出会った。
社会人野球ゆうても、野球だけやっとればいいゆうわけにはいかん。
やっぱり朝はちゃんと出勤せにゃならん。
 奈良から大阪まで電車に乗って、丸善石油の本社まで行った。
こん時、同じ電車乗っとったのがワシの女房や。
まあ、ピンと来て、いきなり声かけた。
「ワシと一緒になれ」これだけや。
 ところが、田舎町には結婚する前に「聞き合わせ」ゆう習慣がある。
つまり、両家の家族が、近所の人に相手の人柄や家柄なんかを聞く。
考えたらこれは便利や。興信所なんぞ使う必要ないからのう。
 ワシの家は材木屋やっておったから、家柄は問題ない。
問題はワシや。田舎町じゃ、ワシはゴンタで有名や。警察に捕まったこともある。
 女房の兄貴が、ワシの近所の駄菓子屋に聞き合わせに行った。
そこのオバさん、警察の人やと勘違いして、
「アッちゃん、また何かワルサしたんか」と聞いたという。
 聞き合わせの結果は明らかやろう。
しかも、ウチの兄貴が女房の実家に行って嫁さんの前で、
「ウチのアツムは性格はいいんだが、我儘に育ったせいか、ケンカっ早いし、金使いは荒い。
今でこそ勤め人やっとるが、将来どんなもんになるか分からん。
だからアツムの嫁さんになるのはやめた方がええ」とゆうたらしい。
 最悪や。ところがワシの嫁さんも変わってるのか、それでもワシんとこに来るゆう。
ワシも相当、変わってると思うが、女房もほんまに変わってまっせ。
そないして結婚して娘が二人できた。
 兄貴の予言通りワシはどんどん道を踏みはずし、はずしついでにとうとうヤクザに迄なってしもうた。ワシは離婚届にハン押して、それを女房に渡してあった。
ワシに何かあったらいつでもそれを出したらええ。ワシの女房孝行はこれだけや。
娘の教育も命懸け
結婚して娘が二人できたが、極道になってから家なんか数回しか帰らん。
しかも、極道時代の約10年間は刑務所暮らしや。家庭内離婚なんちゅう生易しいもんじゃない。
組長やっとるゆうても金なんぞ満足に家に入れたこともない。
 外では何百万もの金を使って、無一文なってたまに家に帰る。
翌日、子供の貯金箱ぶっ壊して、小銭集めて出かけて行ったこともある。
 どうしようもない父親やから、娘もグレたり、ワルサしとると思うかもしれんが、
残念ながら娘二人ともまともに育った。
 ワシの教育方針ゆうたらおこがましいが、きわめて単純や。
これは組の若い者に対してもそうやが、早い話がど突き倒すんや。
厳しいなんちゅう甘いもんやない。怒るときは顔が変形するぐらいひっぱたく。
それこそ命がけでやる。教育も命がけや。
 ワシは娘二人に姉妹のキズナを叩き込んだ。
何せワシなんか、おるかおらんか分からんような父親や。いつどこぞに消えてしまうかもしれん。
母親かてそのうちに死んでしまうやろう。最後に残るのは姉と妹の二人きりや。
 だから、どちらか一方がワルサしても、両方を叱るんや。連帯責任ちゅうわけや。
たまに学校のテストで悪い点取ってくる。そないしたら母親を怒鳴り倒す。
「おんどりゃ、ちゃんと見とかんからこないな成績もってくるんや。
子供の面倒ちゃんとみられんようなら、この家から出て行け。女のかわりならほかにもおる」
 こないゆうて母親を叱る。子供にしてみれば、母親がいなくなったら困ると思うやろう。
そうすると生活態度もちゃんとするし、勉強もするようになる。
 確か長女が小学校1年生の時に、学校でいじめられたゆうて泣きながら帰ってきた。
それを聞いた下の子が、仕返しに行ったゆう。
これがええか悪いかは別にして、姉妹のキズナだけは残せたと思うんや。
 ワシ、一度だけ家で泣いてしもうたことがある。それはワシが両方の小指詰めて家に帰った時や。
夜寝てても指がうずいてしようないわけや。
布団から包帯でグルグル巻きにされた両の手出してウンウンうなっておった。
 そないしたら、真夜中やのに二人の娘がパジャマ姿で起きてきた。
ワシの左右に座って、氷のう持ってうずく手に当ててくれるんや。
「父ちゃん、そないに痛い」
とゆうて、ちっちゃいガキが一晩中冷やしてくれた。
 ワシ、うれしいゆうのと、なんちゅうアホなマネしたかと思うて、涙が止まらんかった。
せつないゆうのはああいうのをいうんやろうなあ。

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