●20.金はなくともハジキは揃えた

 ワシはどんなに金がなくても、メシ食うのさしおいても道具だけはきっちりと揃えた。
ヤクザいうのは、商売でどんなに稼いでも、いざちゅう時にケンカできんようじゃアカン。
ケンカゆうたら道具の良しあしと、日ごろからの心がけで決まる。勝ってなんぼの極道社会や。
 道具いうのは、ハジキ(拳銃)のことや。
S&Wの38口径、ブローニングの22口径、コルトの米軍使用の45口径ゆうゴツイのもあった。
こんなもん全部、ほんもんの前のないハジキばっかりや。
一時、モデルガンの改造銃もはやったが、あんなもんじゃ危のうてケンカにならん。
下手に撃つと自分の手ぇぶっ飛ばしてしまう。
 前のないハジキゆうのは、一度も使ったことのない銃のこっちゃ。
ハジキの弾いうのは、一度ぶっ放すとその弾に、銃痕ゆう、人間でゆうたら指紋とおんなじもんがついてしまう。
だから一度でも犯罪で使われた銃は記録されてしまい、すぐにどこで使用された銃かが分かってしまう。
これじゃあ安心して使えん。こういう前のない銃でないとほんまもんといえん。
 ワシはいつも22口径のサイレンサー付きのハジキを肌身離さず持っておった。
寝る時はいつも枕の下や。なんで22口径かゆうたら、小さくて隠しやすい。
45口径ゆうたらそりゃゴツイし、人間なんか一発でいってしまうが、デカすぎるんや。
 一度、ホテルに泊まって、チェックアウトしたあとに、ハジキをベットに置き忘れてしもうて大騒ぎしたこともある。
もちろんハジキゆうのは日本じゃ持ってはいかんことになっとる。
テレビの刑事物や、ハードボイルド小説ゆうんか、あん中じゃハジキの話がよく出てくるが、
あんなもんウソばっかりや。
あんなボンボン撃てるもんでもないし、あんな簡単に人を殺せるもんでもない。
その証拠に、撃った人は分かると思うが、どだい当たらんもんじゃ。
夜店の射的じゃあるまいし、あないにうまく当たらん。
 けど、いくらハジキ揃えても練習せなならん。
それでワシらは、地理の知った奈良の山奥に入って、何度も何度も練習したもんや。
動いとるモノを撃つ練習いうんで、
高速道路に車を走らせてそこから標識なんかを狙い撃ちする事をやったこともある。
それでも当たらん。
当たらんと思うて撃ったのが当たったり、脅そうと思うて撃ったのが命中して殺してしまう。
それが現実や。
武闘派いうが、本心は怖いからハジキ持つんや。
 ほんまいうと、一時期はM16いうゴツイ自動小銃も持っておった。
けど、幸いゆうか、これは一度も使わんで済んだ。
その後で、あの元山口組系の組とコトを構えたが、もしあん時、
ワシがM16ぶっ放していたら、生きておれんかったやろう。
 道具いうのは、もろ刃の剣なんや。人を殺るいうのは、同時に自分も殺るいうこっちゃ。
これらの道具はその後の抗争事件で全部没収されてしもうた。
 ケンカいうのは度胸や道具の良しあしばかりじゃない。まず死を覚悟することや。
そないしたらどんなヤツともケンカできる。捨て身の人間ほど怖いもんはない。
ほんまにとんでもない世界や、ヤクザ社会いうのは。
頭のてっぺんに今でも残るハジキの傷
ハジキゆうたら、ワシが初めて鉄砲撃ったのは小学校4年の時や。
奈良の田舎町で柴犬を2匹飼っていた。その中のジローちゅう犬をかわいがっておった。
ほんまに寝食をともにするぐらいや。
毎朝、学校へ行く前に散歩に連れて行ったり、一生懸命世話しとった。
 近くに建設現場ができた。100人ぐらい働くデカイ飯場ができた。
そこに、これまたゴツイ、土佐犬がおった。
 ある日、ワシんとこのジローが、この土佐犬とケンカしてカミ殺されてしもうた。
実はオヤジが趣味で猟をしておった。ワシ、悔しうて悔しうて、
親父の持っとったブローニングの水平5連発ゆう猟銃を持ち出して、仕返しに行ったんや。
 その土佐犬の頭めがけて、オヤジの猟銃を一発ぶっ放した。そりゃ頭飛んでもうた。
うまく当たったのはええが、なにしろ小学校4年生の体や。
銃の反動で後ろにぶっ飛ばされ、頭や胸を強打して全治2週間のケガで入院してしもうた。
そりゃ、田舎町やから大騒ぎになった。
 これがワシが最初に銃撃った時の話や。そして最初にお巡りさんに調書取られたのもこん時や。
こんなガキやからヤクザもんになってしもいたんかもしれん。とんでもないガキやったんやなあ。
 ハジキゆうたら、危うく頭ぶっ飛ばされそうになった時もあった。
ワシの兄貴分が賭場開いておった。そこえ、ある組の者がイカサマやっとるとアヤつけてきた。
これを飲んだら信用問題や。ワシと兄貴分と若い衆二人ほどで、その話を受けた。
兄貴のとこの応接間に座って待っておった。
 そないしたら相手が3人、土足のままであがってきた。
「おのれのところ、イカサマさらしとるんやろう!」
兄貴が答える。
「何をぬかしとるんや!」
ワシも出遅れてなるものかと、口をはさんだ。
「あんたらなんじゃい。
人様の家に土足であがって、どういうこっちゃ!生きて帰れると思うてんのかい」
「なんじゃ、おんどれは誰じゃい」
「作法を知らん人間に何を名乗ることあるかい」
「なんや!」
というなり相手は38口径のハジキ出しよった。相手もいい玉や。けどワシかて負けておれん。
ワシはそいつのハジキをつかみにいった。ハジキぐらいでびびったらヤクザやっとれん。
そないしたら相手も勝手が違うと思うたのか、慌てたのか引き金をひきよった。
「バーン!」
銃声がワシの頭の芯に轟いた。
「なんや、おんどれ!」
応接セットのサイドボードのガラスの弾が命中した。えらい音がしよる。
一瞬、頭に焼け火バチでも叩きつけられたような衝撃が走った。
「こりゃ、頭いてもうたわ」と思いましたがな。
 けど、まだワシ息しとる。
それで相手のハジキ取り上げて窓の外にほうり出し、近くにあった灰皿を叩きつけてやった。
頭、血だらけになりながら、相手の3人半殺しにしてやった。
けど、ハジキの弾ほんまに、あと1センチ下がっていたら、ワシの頭ぶっ飛んでしもうていた。
 今でも、頭のてっぺんには、こん時の傷が残っている。治っても、毛が生えてこない。
知らん人には、「ネズミが走った跡や」と言っとる。
 けど、ほんまはハジキの弾がかすったんや。ハジキゆうのは、ほんまに怖いもんや。
けど、あん時、ワシがびびったら、確実に殺られてしもうていたやろう。

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