●19.親分に習って若い者も指詰め

 小指を2本詰め、1本は親分のところに持っていった。
もう1本を義理を欠いた四国のオジキに届けるために飛行機に乗った。
医者なんか行ってる間はない。指詰めたその日のうちに若い者連れて四国へ向かった。
 オジキのとこに行って、
「オジキ、誠に申し訳ありません。野球の金のことで詫び入れにきましたんや。
ヘタ打ったお詫びに指持ってきました。納めてください」
と謝り、白いハンカチに包んだ指を差しだした。
 うちんとこの若い者に、金持ち逃げされたなんて、恥ずかしゅうてよう言えない。
そのオジキもいい人やった。
「なんで指なんか詰めたんや。電話一本して、少し金の払いが遅れると言えば済んだやないか」
と言ってくれ、親分以上に同情してくれた。
 ワシ、そん時、500万円ぐらい持っていって、
「足らんけど、とりあえず納めてください。大阪に帰ったら、足らん分すぐ送りますから」
と頭を下げた。
確か、2000万円ぐらい足らんかったと違うかなぁ。
 オジキは、
「そんなもん、いらん。これはオレからの慰謝料や。客に払う金のことももう忘れろ。
ワシがちゃんとする。オレが兄弟分の若い衆の指もろうたゆうたら、あしたから極道やめないかん。
山本も極道しとったら分かるやろう。その指だけは受け取れん」とゆう。
 けど、ワシもせっかく切った指を持って帰るわけにはいかん。
「お願いですから、受け取ってください」
「いや、受け取れん」
とワシの指を間に押し問答や。結局、オジキの兄弟分が中にはいってくれた。
「兄弟も受け取ったらカッコつかんし、頭も死に指になってしまうがな。
ここはひとつワシが預かっておこう」と指を納めてくれた。
 その夜は、オジキにごっつい料亭に連れていってもろうたが、
目の前に並ぶ高価なマツタケやら伊勢エビも味わっとる余裕なんかない。
ただ座っとるだけで、詰めた小指の痛みがバーン、バーンと頭のシンまで突き上げてくる。
指詰めてからもう8時間ぐらいたっとる。痛みで他人の顔はふわふわとかすんで見えんようになる。
額から脂汗が出る。何を話しとるのか分からへん。
 そん時、オジキの若い衆が、
「頭、医者に行ったんですか?」
と聞いてくれた。ぼんやりとした目で、その人を見ると指がない。
やっぱり同じ経験をした人は気が付いてくれるんやなぁ。
 「まだです」と正直に答えると、
「なんちゅうやっちゃ、医者にも行かんと四国まで来たんか」
と大急ぎで医者に連れていってもらった。医者もびっくりしとった。
 これでワシもなかなかの男と認めてもろうたが、大阪に帰って驚いた。
空港に迎えに来たうちの若い者がみんな手に包帯をしとるやないか。
「どうしたんや?」と聞くと、
「親分が指詰めて、若い者の私たちにちゃんと指があるんじゃカッコつきませんがな」と言う。
 その場にいた若い者は12人。それにワシの指2本も合わせて14本の指がなくなってしもうた。
指詰めたかて、いいことなんか何もあらへん。
けど、若い衆は、どんなつまらんことでも親分の行動を美化する。
ワシはそん時、「人の上に立つ者は、判断だけは絶対に間違うてはアカン」とつくづく思うたんや。
指切り騒動始末記
 小指2本切って、なんとか始末はついた。けど、
金を持ち逃げしたガキ二人を捕まえんことには腹が収まらん。
 人探しゆうたら、ヤクザの組織ゆうか、捜査網は半端やないで。全国に電話1本で手配できる。
警察にも負けんぐらいや。
尋ね人がよく新聞に出とるが、あんなもん探すの組関係者やったら一発や。
ヤクザもんも、そのくらいは世の中の役に立ってもいいと思うが、
ワシんとこも金持ち逃げした1人の行き先はすぐに分かった。奈良に隠れとるゆう。
ワシは指がまだズキズキしとったが、マーキュリークーガーゆうアメ車、運転して探し倒したんや。
 ところが、そのガキもワシの性格はよう知っとるさかい、逃げ切れんと思うたらしく、
“死のう”と決心したようや。けど、死にきれん。
悩んで悩んで悩み倒して、ワシの親分のとこへ電話してきた。
 「ほんまにアホなことしてしまいました。指でも腕でも切りますさかい、
命だけは助けてください。頭に謝って下さい。」
こうゆうて泣きついたらしい。
 親分も絶対にワシが許さんことをよう知っとる。
けど、親分は、人がええゆうか、
そない言われて、さすがにワシが惚れた親分だけあって、情けを飲んだらしい。
 「よし、オレんとこに帰ってこい。頭にはオレが責任もって口きいてやる」
とそのガキに言ったらしいんや。ワシはそんなこと知らんから、血相変えて探し回っとった。
そないしたら、親分からワシに電話が入ってきて、
「アイツら許したれ」とゆう。
 「親分が許したれゆうたかて、今度ばかりは、なんぼ親分のことでも辛抱できまへん」
とワシ、初めて、親分に口答えしてしもうた。
「なにイッ、オレの言うことを聞けんのか!」
親分は猛然と怒り出した。そりゃそうや、どないな事情があるにせよ、親に逆らったんやから当然や。
 けどワシも言い出した手前、引っ込みがつかん。
「いくら親分の言うことでも、聞けることと聞けんことがありまんがな」
もうこないなったら、指は痛いし、やけくそや。
 親分の怒声が続いた。
「ワレ、親の言うこと聞かんのか!聞かんのやったら破門じゃ!」
「おう、上等じゃい!」ゆうてワシ、電話を叩き切ったんや。
ワシんとこの若い者のことは、ワシがけじめつける。たとえ親分かて、口出し無用や。
 いったんはカッとなったが、ワシの兄貴が間に入ってくれた。
そこで、金持ち逃げしたガキ2人が親分に泣きついたことがやっと分かった。
親分はワシにそんなことは一言も言わん。
親分はワシのことよりアイツら2人の方がかわいいんかと思うてたんや。
 親分の家に行ったら、憎たらしいことに探し回っとったガキ2人が正座しておった。
ワシはカーッとなってド頭カチ割ったろうと思うたが、辛抱した。
そりゃ辛い辛抱や。正面にはそいつらの小指2本が揃えられてあった。
 子分たちも指詰めて、ワシの指切り騒動は幕を引いた。
ヤクザいうのはほんまに因果な商売や。

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