●26.抗争の全責任を負って止めを打つ

 結局、抗争事件が起きてから1年後にワシは逮捕されたが、こん時の罪状は傷害罪や。
それも数年前に覚醒剤を射っておった者をド突き倒した件やという。
いわゆる別件逮捕ゆうやつだが、ほんまに警察はえげつないところや。
そんなもんこっちは逃げも隠れもするかい。早ようこい早ようこい思っておったのに別件とは何事や。
 それからひとつひとつ事情聴取を受ける。
こっちは、「全部ワシがやった、ワシがやれゆうた」というだけだから、簡単に済む思うていたが、
ちまちま聞いてくるもんやから終わるまで半年もかかってしまった。
 なんせ、20何人もパクられたから、みんなの口裏があわん。難儀したもんや。
特に府警4課の捜査本部の取り調べゆうたら、きついちゅうなんてもんやない。
ウチの若い者の中には、首つって自殺未遂したヤツもおったし、気ぃ狂ったヤツもおった。
 どうしてもウタわされて、ワシに会わす顔がないゆうて、小指を噛み千切ったヤツもおったぐらいや。
社会では能書きゆうておっても、警察にパクられたら、ほんまに根性が変わる。
あれだけパクられる前に、綿密に打ち合わせをやっておいても、全然あてにならん。
 こんなこっちゃ、そんなこっちゃで半年間取り調べの結果、
今度の抗争事件の全責任はワシやということで止めをうったんや。
 そして、保釈の話になった。若い者から順にどんどん保釈で出ていきよる。
そないしてやっとワシも保釈されることになった。
 ところが、これだけの人間みんな保釈されたら、それだけでなくても貧乏な組や、
親分や兄弟分が家を担保に入れても、保釈金が追いつかん。
みんなが金策に走り回る。
 こんな時は、パクられて出てこれん者もきついが、
金策に駆けずり回らなならん親分や兄弟分はもっと辛かったやろう。
 恥ずかしい話、若い者は何とか保釈で出たが、ワシの保釈金がでけへん。
なんせワシの保釈金は若い者の10人分ぐらいかかる。
親分の心中も分かるが、これ以上の無理も言えん。
 それでワシ、取り調べの刑事課長にゆうた。
「ワシ、金があらへん。保釈金が払えへんのや。このまま裁判受けて、お勤めに行きます」
けどこの刑事課長ちゅう人も変わった人やった。
 「今度、入ったら当分出てこれんやろう。ワシが金の段取りつけたるから1回出れや」
とこない言いよる。
 ワシ、冗談にしろ、うれしゅうて、鼻柱が暑うなった。
きっと、ワシが検事調べの時、一切のゴチャゴチャなしに罪状認めて、刑事課長の顔も立ったんやろう。
 結局は、検事の温情もあり、弁護士保障も手伝うて、ワシの保釈金が一番安かった。
こんなことは前代未聞や。
警察ゆうところは、なるべく世話にならんほうがええし、ほんまにえげつないところやが、
なかにはこないなけったいな刑事もおる。
 そういえば、ワシ、半年間警察におって、少しは協力したこともあった。
あれはえらいしぶとい盗っ人が捕まってきよった時や。
取り調べの刑事同士の会話で、なかなか口を割らんのが分かった。拘置期限がどんどん迫ってくる。
そこでワシがかわりに調べてやった。もちろん腰ヒモに手錠つきの即席刑事や。そりゃききまっせ。
 「おんどりゃ!たかが盗っ人がなにカッコつけとる!死刑になることはないんやで。
早よう往生して、帰ること考えんかい。とっとと白状せんかい!」
ゆうて睨み倒してやった。そないしたらこのこそ泥、かしこまって全部吐きよった。
若い刑事が感心して、「頭、今度生まれ変わったら刑事になってください」と言いよった。
裁判官に男の約束。「若い衆を堅気にさせます」
ワシがパクられた後、本家の、二代目の諏訪組組長の有末辰男親分が、道具に関連した事件で、
府警本部にパクられることになった。
その時に調べにあたった刑事が、ワシん時の担当刑事で、抗争事件の真相をすべて話してくれたらしい。
もちろん、相手の組へワシが単身で、掛け合いにいったことも、調書から知って話してくれたらしい。
 それで保釈されて、本家の総裁に一部始終を話してくれた。
すべての真相を知った総裁がワシに謝ってくれた。
総裁は、この抗争でワシが逃げておったと思っていた。
 「山本、オレの間違いやった。辛い思いさせたな、勘弁してくれ」
こないして本家の誤解がとけたんや。
 それまで、ワシの腹の虫は、「ヤクザやめたれ、やめたれ」
と泣き続けておったが、総裁の一言が、特効薬となって腹の虫はおさまりよった。
それ以来、総裁は何事があっても、「アツム、アツム」と特別に大事にしてくれた。
どんな社会でも辛抱は、大事なこっちゃ。
けど、あの時、もし誤解がとけなければ、ワシはもっと早く足を洗っとったかもしれん。
 ワシらの裁判が始まった。罪状は凶器準備集合罪、傷害罪、銃刀法違反、火薬法違反…
名詞の肩書きやないけど、覚えきれんくらい罪名がついておった。
 裁判は分離公判や。
ワシは裁判になっても「刑事さんの調書通りです」ちゅうもんですわ。
ただウチの若い者の裁判に、証人として出廷したときは、裁判官に土下座して、泣きを入れておいた。
 「お願いします。こいつらはもう極道として使いものにならん連中ですから、全員、堅気にさせます。そうでっしゃろう。親分の写真や組の代紋に鉄砲玉うち込まれ、提灯に穴あけられた。
これで、報復できんようなものをヤクザさしといても意味がない。
また、女房、子供のおる人間が刑務所に行ったら、本人はよろしゅうおます。
けど残された女房や子供がどんなに辛いか、ワシはよう知っとりますし、経験しとります。
ですから、こいつら全員堅気にさせますから、なんとか刑務所に行かんでもええようにして下さい」
 そないゆうて、法廷で手ついて頼んだ。
そうしたら、その裁判官が突然、ウチの若い連中に怒りだした。
 「君達も男だろう。ヤクザやっていて、なんでもかんでも頭のせいにする。
このまま山本被告が全部の罪背負っていったら、一生、刑務所から帰ってこられませんよ」
けどワシは裁判官にゆうた。
「裁判長さん。どうか堪えてください。ワシはどんな償いでもします。どうかお願い申し上げます」
ワシ、もう涙で顔があげられへん。
 けどこの裁判官は分かってくれて、ウチの連中はほとんど執行猶予にしてくれた。
どうしても刑務所に行かなならんのは前科があったり、別件持っとる連中や。
 ただ最後に裁判官にこういわれた。
「ただし山本被告、君が責任持って全員堅気にしてあげなさい」
「分かりました」
と法廷の天井が抜けるほどの大きな声で、ワシは男の約束したんや。
 そないして、とうとうワシの判決の日が来た。無期懲役でもなんでもええと思うていた。
そないしたら求刑が「懲役7年」

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