●24.カチ込みされて「なぐり込みや!」

相手もなかなかのもんや、おはぎ2個とお茶を出してきよった。
ワシは、「この世で口にするのも、このおはぎが最後か」
とかみしめながら食ったが、そんなもん喉も通らない。
味なんか分からへん。やっとの思いでひとつ食った。お茶も飲み終わって、
「さあ、好きにやってくれ」と座り直した。
 ところが相手の組の連中は、またどこぞに電話して、
「今、おはぎ食い終わりました」と何やら報告しとる。そしたら、
「もう少しお互い事情を聴いて、ケンカすんならそれからでも遅うない。
一人で来た人間を殺すゆうようなことをしたら、山口の代紋に傷がつく」と相手が言いよった。
「送るわけにはいきまへんが、車呼びましょう」と言われ、その場は、殺されんと事務所の帰ったんや。
 この元山口組系の組との抗争終結後、ワシは警察に捕まったが、
取り調べの刑事がこの”おはぎ事件”を相手の調書から知って、
「ようそんな命知らずなことをやりよったなぁ」とビックリしとった。
 おはぎを食わせてもらったうえ、車に乗って事務所に帰ったら、
うちの若いもんは血相変えて、みんな戦闘服に身を固めてワシを待っておった。
「ごくろうはんです」と今にも泣き出さんばかりのヤツもおる。
 その直後や、”バババーン”と事務所にタマ撃ちこまれたんわ。
「なんや、話が違うやないか。お互いに事情を聴いてからちゅうのはウソやったんかい」
と思うたが、そんなんは後の祭りや。
 ワシはもう頭にきた。
「道具持ってこい!こうなりゃ、とことん行くぞ!」と大号令だ。
若い者にレンタカー借りてこさせ、車の後ろのガラス外して猟銃持たせた。短銃やない、散弾銃や。
 これやったら少々的に外れても当たる。
そない準備しておったら、また銃撃された。カチ込みの第二波や。
「ケンカにルールはないんでっせ」と相手の組から抗争が終わった後に言われたが、
その時は頭にカッカッカッーと血が逆流して、落ち着いて考える余裕もない。
 「こないされたら、黙っとられん。徹底的に行ったろ!」と先発隊を送り出した。
車1台に4人乗せて、全部で5台20人。殴り込みや。
 ところが、どっこい、相手の方が役者が上でんがな。
むこうの事務所はもう機動隊がガードしとるゆうやないか。
それも山盛りや。相手が警察に通報したのか知らんが、機動隊に守られた最強のトリデや。
 「手も足も出ません」ゆうて先発隊は帰ってきよる。頭ええいうか、先手先手と手ェ打ってくる。
あの山口組の中でも超武闘派と恐れられる組だけのことはある。さすがにケンカ慣れしとる。
ワシもあの時はええ勉強させてもらった。
 相手はハジキをバンバン撃ち込んでくる。後れをとったワシは焦る。
余裕を持った向こうは、本家に人を介して話を丸くおさめるちゅう動きもしてくる。
けど、ワシと親分の淡路会会長の面目は丸つぶれや。情けのうて情けのうて…。
このまま引き下がったら、ヤマモト・アツムの名がすたる。何のために極道しとったんか分からんわい。
突入を前日にみんなで涙の水盃
元山口組系の武闘派との抗争は約1ヶ月続いた。ワシの事務所にも機動隊が張りつき、
マンションに出入りする洗濯屋から出前持ちのお兄ちゃんまでみんな身体検査される。
 ワシの事務所と同じマンションに住むおばあちゃんから、
「頼むから、もうケンカみたいのはやめといて」とすがってこられた時は、
さすがのワシも返す言葉はなかった。
「おばあちゃん、すまんな、堪忍な」いうのが精一杯や。
 こっちの方も相手の事務所も機動隊にすっかり包囲されて、互いに手出しができん。
うっかりハジキなんぞ持って歩いたら、すぐにしょっぴかれる。
けど、情報を取って、どの辺を狙えと指示したり、だれそれが外出しとるいうことが分かる。
そして町の真ん中の商店街で、撃ち合いまでやってしもうた。
 そうこうしとるうちに、暴力団の親睦団体である阪神懇親会が見るに見かねて調停に動き出した。
手打ちの話や。
元山口組系の組の方はワシのとこにハジキをバンバン撃ち込んどるからカッコはついとる。
けどワシらはやられっぱなしや。本家の諏訪組の方からもそろそろおさめや、ゆうてくる。
 ワシ、淡路会の会長にゆうたんや。
「親分、このケンカもうアカン。組つぶす気でやるしかない。
天下の山口組の武闘派とケンカして、組つぶされるんなら上等でっしゃろ」
 親分も腹くくってくれた。「おお、行け!かめへん。オレも行く!とことん行こうやないかい」
淡路会の会長いう人はそないな人や。よそから借金してきた金も何もかも投げ出してくれた。
ワシは若いもんみんな集めて領置金(拘置中に使える金)持たせてこう言った。
 「警察にパクられたら、接見禁止になるやろう。しかも、その時には組がのうなってるかもしれん。
とにかくこの金でしのげ。
どうしても取り調べに絶え切れんかったら、すべては山本の指示でやったといえ。
女房や子供がいるヤツはいまのうちに会っておけや」
 警察がおろうが機動隊がおろうが、突入する覚悟や。親分もいう。
「こうなったらしゃあない。山口組の本家でもどこでも行け。オレが陣頭指揮を執る。
オレも死んだる!」
 単なる殴り込みやない。特攻隊や。そうはいっても親分を先に死なすわけにはいかん。
「親分、ワシも死にまんがな。親分を先に死なす子分がどこにいてまんの」
ワシこないゆうてみんなで涙流して水盃したんや。そんな時でも親分はこないゆう。
「けど、これだけは絶対に肝に銘じておけ。女、子供にだけは絶対ケガさせたらあかんぞ!」
親分は、これだけは念押しした。
 現場の責任者はワシや。ワシはそれこそ、
「もう警察がおろうが何がおろうが、とにかく行くんじゃ!」ちゅうもんですわ。
なんせワシなんか、何日も寝とらん。目のふち真っ黒にして、パンダみたいや。
拳銃を何丁もベルトにはさんで、今考えればそれこそ漫画やけど、その時は真剣そのものやったんや。

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