●15.「人にモノ教えんのに限度はないんや」

 新人教育で一番難しいのがヤクザ社会とちゃうやろか。礼儀作法を覚えたけりゃ、
しっかりしたヤクザの事務所で1年勤めたらええ。そない思うぐらいや。
 ワシも厳しく新人教育した方やが、ホンマゆうたら失敗だらけなんや。
事務所のカネを持ち逃げされたことは何回もある。
ワシが見込んで、スーツや靴から車まで買うてやって、「マンション借りや」ゆうて敷金渡したら、
翌日から事務所に出て来んようになった者もいる。
けど、ヤクザが「持ち逃げされました」なんて警察に届けるわけにはいかん。
ヤクザも泣き寝入りすることがあるんや。
 冬の寒い時やった。少年院帰りの新入りが不始末をやりよった。
もちろんド突き倒すが、何辺ド突いても手癖の悪いヤツはどうにもならん。
盗人とウソをつくことは絶対に許せん。
 ワシ、そいつを素っ裸にし、針金でグルグル巻きにして、水風呂につけておいた。
用事ができて出掛けることになった。風呂場のヤツ、どないするか迷ったが、
「まあええ、ほっとけ」てなもんや。
ワシがいない時に兄弟分がやってきた。風呂場をのぞいたら、
そいつは血の気が全然なくて全身が紫色になってたそうや。
 兄弟分は「殺してしもうたら、どないするつもりや。何でも限度ちゅうもんがあるやろ」
とワシを諭す。
けどワシはこう答えた。
「なんぼゆうてもきかんガキや。人にモノ教えんのに限度はないんや。それで死んでしもうたら、
それだけの人間ちゅうことや。後始末はワシが全部引き受けたらええんや」
兄弟分は、あきれていた。
 ヤクザの事務所には、いろんな嫌がらせ電話も入ってくる。
「おんどりゃ、これからカチコミ(殴り込み)に行ったる。覚悟して待っとれや!」
なんて電話もようかかってくる。
こんな電話を取るのも新入りや。そないな電話あったら、慌てずにこない言えゆうてある。
「オォ、上等や。玄関開けて待っとるから、ちゃんと道間違えんと来いや!」
 売り言葉に買い言葉や。けど、新入りはビビッてしまう。
ドスを利かせて、これをきっちり言えるようになったら一人前や。
 ある時、こないな電話があって、電話はきっちり対応したらしい。
本人はうまくいったゆうて満足や。けど、ワシらへの報告を忘れてしもうた。
イタズラ電話はいちいち報告せんでもええのやが、
相手が組の名前と個人名をハッキリ名乗った時は報告するのが決まりになっとる。
 しばらくしたら、ほんまに殴り込みに来て、ハジキ(短銃)5〜6発撃ち込まれてしもうた。
突然、事務所ん中に弾が飛び込んできたのにはワシもビックリした。
ヤクザ社会でも、一般に会社でも、ホンマに新人教育は難しいもんやで。

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