● 14.アコギなシノギがヤクザの世界

 ワシはほんまに金儲けのできんヤクザだった。けど、ヤクザゆうたら、とにかく銭なんや。
銭がないことにはどうしようもない。
チンピラ時代は親分や兄貴から小遣いもらうが、いつもピーピーしとった。
 そこで、いろんな知恵がつく。
チンポコの毛を全部そってから、銭湯に行く。そして番頭のオッサンにかみつくわけや。
「ここで毛じらみもろうてしもた。こないな格好じゃどこにも行かれん。女にも笑われてしまう」。
体には金太郎さんの入れ墨入っとる。20年ほど前のことやったが、2000〜3000円はくれた。
 まあ見舞金ゆうわけや。1軒だけやったらもったいないゆうて近所の銭湯もみな回る。
ええ小遣い銭や。若い者、何人かおるから、そいつらのも全部そらせて、銭湯回りや。
 それと、パチンコ屋の開店や。
たいていのパチンコ屋は組の事務所の方に挨拶ゆうかショバ代払うんやが、
中には払わんところもある。そないなところは若い者の出番や。
開店と同時に店になだれ込んで、組の名前入ったマッチ箱を置いて歩く。
ほかの人が先に台を取っても、
「オイ、どけや!」
客の方は組の名前知っとるから、
「ヤバイ」
思うて帰ってしまう。これでこの店はたいてい事務所の方に挨拶に来る。
 けどこれやったら組の収入になってもワシらに金入らん。そこで暴れる。なんでもええ、
いちゃもんつけて、ちょっと突っぱっとるパチンコ屋の店員が一言でも何かゆうたら、
「何や!」
言うてパチンコ台のガラス全部割るんや。ワシも1度だけ大暴れしたが、これで有名になった。
ワシがどこぞのパチンコ屋に、ちょこっと顔出しただけでも、店長は青ざめて金出しよる。
 アコギなもん飲み屋もおんなじや。気にいらん飲み屋があったら、若い者と一緒に開店から入る。
一見してヤクザいう格好して大きな声で、
「兄貴!」 「兄弟!」
 ゆうて堅気の客にガン飛ばし、ニラミ倒す。けど決して手は出さん。カラオケのマイクも独占や。
歌うのはヤクザの歌ばっかりや。こんなん1週間も続ければ十分や。ほかの客は来なくなる。
暴れ回らんでも、飲み屋の1軒や2軒つぶすのはわけはない。
 こんなのはシノギ(仕事)ゆうより、人間のクズのやることや。
けど、ヤクザやっとると感覚がマヒする。セコイ話しや。
 セコイゆうたらこんなセコイこともやった。腹減って、食堂行ってカレーライス注文する。
八分ぐらい食うてからポケットに忍ばせとるゴキブリ放り込む。
店のオヤジは「すいません」ゆうてもう一杯、新しいカレーライス持ってくる。
1杯分の値段で2杯食える。ヤクザゆうて肩いからせとっても、しょせんこの程度なんや。
ヤクザでも大事です新人教育
ヤクザやってて、一番、大事なのが新人教育や。
10代半ばでワシらんとこへ来て、ヤクザなりたいいうんは、ハンパなヤツが多い。
芸能人に憧れて、芸能界に入りたいゆうのと五十歩百歩や。それ以上かもわからん。
 ヤクザになると、車に金、女にも不自由せん。
それどころか、ごっつう金儲けできて、大きい顔して、肩で風切って街歩ける。
そんな憧れでこの世界に足踏み入れるヤツばっかりや。
 少年院帰りもザラや。色気だけはついとるが、字も満足に書けん、掛け算の九九もいえん。
けど悪知恵だけはついとる。学校も仕事も、こらえ性がのうてやめてしもた連中や。
こういう連中が、100人おったとして、まっとうな極道になれるのは二、三人や。
ヤクザゆうのは厳しい世界なんや。
 ワシは新人の教育が厳しいんで有名やった。たいていの連中はついてこれん。
けどワシんとこで修行積んだモンはみな一人前になっとる。
 最初は電話番や。けど、これが難しい。
一般の会社でもそうやろけど、電話の応対でその会社や組の実力ゆうか内容が分かるんや。
電話のベルは1回や。ベルが2回以上鳴ってから出るようなトロイのは受話器で頭をぶん殴る。
そして、腹の底から、「山本組!」という。
トチったり声が小さいと、灰皿で頭割られたり、ド突き倒される。
 口べたな人間でも、便所や風呂場の中で一生懸命練習や。
寝言では、ようしゃべれるのに、いざ受話器を持ったらゆえん。不思議なこっちゃ。
そやけど、しまいには石の地蔵さんさえしゃべらすぐらいになる。
 「失礼ですが、どちらさんですか」と聞く。聞いたら繰り返すんや。
「○○組の○○さんですね」そないゆうて親分や兄貴たちの様子見る。
なかには電話で話したくない人間もいる。様子見て、
「少々、お待ちください」ゆうか、
「ただいま不在ですが、もしよろしければ用件を伺いますが」
のどっちのセリフゆうか判断するんや。
 事務所の掃除、使い、たばこの火つけ、お客さんの送り迎え。話すときは、全部直立不動の姿勢や。
給料なんかあらへん。事務所に寝泊まりして、飯は兄貴たちに食わしてもらう。
たまに小遣いもらうだけや。
 この小遣いもろうて、酒と女とバクチに使うてしまう者が多いが、
もろうた小遣いためて、いざちゅうときのために道具(短銃などの武器)を買うもんもいる。
こういうのが出世する。
 最近は、礼儀作法や口のきき方を知らん若い者が増えたが、そんなんは教育する方が悪いんや。
教育ちゅうのはド突き倒そうが、頭カチ割ろうが、徹底せなアカン。
こうして体で覚えたことが結局、最後には本人の財産になるんや。
 こないゆうたら笑われるかもしれんが、ほんまもんのヤクザになれる人間はほんの一握りや。
ほんまもんのヤクザになれる人間は、どこの社会に出ても一人前になれる。
 ハンパモンにはヤクザは向いとらん。矛盾しとるようだが、これも現実や。

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