●13.友達や後輩には迷惑かけられん

ヤクザやっとって、つらいことばかりやったが、その中でも一番つらいのは、
浪商時代の同じ野球部のメシを食った友人たちの存在や。
 ヤクザは、親分、子分の盃かわしてから、まず、ほんまもんの親との縁を切る。
縁を切るだけやったらええ。
次に親兄弟を食いもんにする。そして次に友達も食いもんにすんのや。
自分の身近にいる者から順に金をむしり、時には、ワナにはめ、
利用して骨の髄までしゃぶり尽くす。これが、ヤクザの生き方や。
 けど、ワシはこれができんかった。
そりゃ、親からはムシリ取ったこともあった。けど浪商の友達にはできんかった。
 ヤクザゆうたらバクチがつきもんや。大阪ゆうたら野球賭博や。
ワシの浪商時代の友人に、その頃、プロ野球で活躍しとった張本勲がおった。
浪商の後輩には、世界ジュニアバンタム級統一チャンピオンになった渡辺二郎もおった。
 悪い知恵働かせば、なんぼでも金儲けできたかもしれん。
けどヤクザやっとって、それだけはしとうなかった。
エエかっこに聞こえるが、これだけがワシのとりえやったんや。
 ハリが、西宮球場に来た時や。ワシはヤクザやっとるから、絶対球場には行かん思うてた。
けどやっぱりハリの晴れ姿を一目見たい思うて、若い衆連れて球場に行った。
ハリはもう東映フライヤーズの4番打っとる。
一段とたくましゅうなったハリのユニホーム姿、見とってジーンときた。
若い衆にもハリと一緒に野球やっとったゆうんは隠していた。
 ところが、ヤジがひどい。ひどいちゅうもんやない。聞くに耐えんヤジが飛ぶ。
アカン。ガマンできん。もう辛抱できん。
そのヤジを飛ばしとるガキは、向かい側の観客スタンドにおる。
 ワシ、立ち上がると、向こう側の観客スタンドへ一直線や。
ワシはそのヤジ飛ばしたガキを見つけだして、引きずり回し、
「オンドリャー」 ゆうて蹴り上げ、ド突き倒した。
 そうなったらもうスタンドでケンカや。ガチャガチャや。試合が中断するほどや。
ワシ、球場の派出所に連れていかれた。それでも腹の虫はおさまらん。
でも、派出所のお巡りさんもワシの気持ちを理解してくれた。始末書だけで帰してくれた。
ワシはシノギはできないタイプだった。
ただ、ケンカだけは誰にも負けんかった
 それ以来、ハリの試合は一度も見に行かんかった。なんか問題起こしたらハリに迷惑かかる。
結局、ハリの試合を実際に見たんはその一度きりや。
 渡辺二郎もそうやった。後輩ということで、少し面倒見たことがあって慕ってくる。
そりゃ、ええ男やった。ボクシングやる時も相談があった。
「やるからには、世界一になるんや」 とゆうてやった。
 これも一度だけ若い衆連れてリングサイドに応援に行ったんや。
そないしたら二郎のヤツ、リングの上からワシに挨拶する。そしたらみなワシの方を見る。
ワシらはどない見たって、本物のヤクザ以外に見えん。
ヤクザもんと二郎の関係が取りザタされたら困るやろう。
 結局、渡辺二郎の試合も一度見に行ったきりや。
友達や後輩には迷惑かけられん。
ヤクザもんは自分から友人たちの前から姿を隠すんや。これがワシの半生やった。
シノギ(仕事)はバクチとケンカ専門
ヤクザのシノギ(仕事)ゆうたら、バクチ、シャブ(覚醒剤)、売春、債券取り立て、用心棒、
もめ事の仲介などいろいろあるが、ワシはシャブと女のシノギだけは手ぇ出さんかった。
 ワシは、結局、シノギゆうか金儲けはできんタイプやった。
バクチとケンカ専門や。ケンカだけはだれにも負けん思うていたし、
道具(短銃などの武器)だけはメシ食わんでも最優先で手に入れた。
ホンマモンのチャカ(短銃)が30万から50万円。
一時期は米軍のM16ゆうごつい自動小銃を持っていたこともある。これが300万円やった。
 最近のヤクザは、商事会社や不動産会社を経営して、
金融や地上げ、株取引などでごつい金儲けするようになったが、
ワシは時代の波に乗り遅れた極道やった。はっきりゆうてアホやったんや。
 月に二度、散髪に行くだけの頭しかないんや。
せやから、金もうけできんからいつも金で苦労した。
 ワシの兄貴でこんなことやって金もうけした人がおった。
街の金融屋から金借りる。極道専門の金貸しもいるぐらいやから、その筋のもんとも関係はある。
3000万円、5000万円と借りる。借金やから返さなアカン。期限がくる。
けど、返す金はない。金融屋はその筋の人間に頼んで取り立てに来る。当然や。
 そこでワシの兄貴分は、若い者にその辺におるノラ猫やノラ犬を拾うてこさせて
体洗うてきれいにしとく。まあ即席のペットちゅうわけや。
 借金の取り立て屋が来る。兄貴分は、ニコニコ笑うてペットの猫を抱いて応接間に通す。
「何の用事でっしゃろ」 とゆうて猫に頬ずりせんばかりに、「ヨシ、ヨシ」 とかわいがる。
取り立て屋が用件を切り出す直前になって、抱いとる猫の足かなんかを分からんようにつねる。
そないしたら、猫はギャーと鳴いて、持っとる手をひっかく。
そこで血相変えて、「このガキャー!」 と言って、
机の引き出しから22口径のハジキ取り出し猫の口に銃口ねじ込んで、バーンや。
頭が半分飛んでしまう。そ知らぬ顔で若い者に「片づけておけや」 ゆうて、再びニコニコ笑う。
 「あっ、えらいすんません。ところで、何の用でっしゃろ」 と取り立て屋に聞く。
たいていの取り立て屋は、用件もいわんと青ざめて帰ってしまう。
ひどい話しや。
その兄貴分の事務所の周辺には、ノラ猫やノラ犬の姿がばったりと見えなくなった。
ヤクザはどんな汚い手でも平気で使う。
 極道から足を洗った今でこそ、「ヤクザなんて、ろくなもんじゃない」 といえるが、
そのころのワシは「男になりたい」 そればっかりやった。ほんまにアホやったんやなぁ。

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