●12.舎弟のために「女のもめごと」

 ヤクザの世界は、親分のいうことは絶対や。
ワシは諏訪組系淡路会の大西会長の子分になったが、刑務所帰りちゅうことでハクがついた。
しばらくしてから若い者頭に抜擢された。そりゃ大出世や。
入社そうそうの営業マンが、商品をひとつふたつ売ったかて、営業部長にはなれん。
ところがワシの場合、一息に常務になったようなものや。
けど、ヤクザいうんは上に行けば行くほどツライ商売なんや。
 若い者の面倒は見なきゃならん。かといっていざケンカとなれば先頭きって行かにゃならん。
親分も男にしなきゃならん。ヘタ打ったら、すべての責任を背負わなならん。
組織を大きくせなならん。これが頭の宿命ちゅうもんや。24時間、ほんまに休める間がない。
 極道の世界に入って10年ほどで一家を持って組長になったが、
組長になったら少しはいいめ見られるやろう思うていたが、それがまた違う。
子分の中には出来のワルいのもおって、つまらんケンカをしてくる。
酔っ払った上のケンカでも、組あげての抗争になることもある。
金と女でええ思いすることもあるが、金で苦労することの方が多い。
 1年365日とすると、ええ思いすんのは5日ほどや。あとの360日はツライことばっかりや。
そりゃ金の入った時は、盆と正月が一緒に来たようなもんや。
女房や子供連れて、若い衆連れて、百貨店ごと買うたるゆうぐらいの勢いや。
けど落ち目に時は、目もあてられん。
ごはんに醤油かけて、おしんこのしっぽかじって1ヶ月間過ごすこともある。
 親分のためや、組織のためやゆうては、
自分なりの言い分をつくっては、ほんまに悪いことも仰山やった。
 ケンカ専門や、武闘派やいわれていい気になってたが、ワシは本当は気が弱かったんや。
ケンカ好きやったのは、やっぱりヤクザの世界では強いのが法律や。
そん中で男をあげるのはケンカしかない。そう信じとったんや。
 ワシも女は好きや、そやけど女のことでウジャウジャするのは大嫌いや。
だからヤクザやっていても、女とシャブだけは手ェ出さんかったし、若い者にも禁じとった。
ところが、ワシが刑務所を出たばっかりのころ、
京都の雄琴のソープランドの女のことである組ともめてしもうた。
いや実は、女のことだと知らずにもめてしもうたんや。
ワシの舎弟が、しばらく刑務所に入っとって、出てきた。
この舎弟はワシに隠しとったが、ずーっとソープランドの女のヒモをやっていた。
ところが刑務所に入っとる間に、女がある組の女になってどこかへ連れていかれてしもうた。
自分で何とかしよう思うたが、どうも話がこじれそうになった。
 そこでワシに相談した。
けどワシもワシの若い者もヒモなんて御法度や。
そこでワシに女のことは隠して、相手の組と交渉してくれちゅうことになった。
ワシにとってほかの組との交渉いうんはケンカのことや。
ワシは女のもめ事とも知らずに、
こりゃ売り出す大きなチャンスやと思うて、そのケンカを買うてしもうたんや。
組とのケンカで売り出すつもりが…
 その交渉ゆうか、話し合いは、相手も5人。こっちも5人や。
待ち合わせの場所は名神高速道路のあるインターそばのレストランや。
ヤクザの話し合いはうまくいく時もあるが、うまくいかん時もある。うまくいかん時はケンカや。
もちろんケンカとなればルールはない。勝ってなんぼや。
 それで、まず話し合いに行く5人のほかに、3人を、車に乗せてケツにつけさせた。
話し合いに行く連中はもちろん丸腰や。けど後ろから行ったヤツには道具持たせる。
話し合いがこじれたら、38口径の拳銃をぶち込むんや。
 まあ、ここまでやったらだれでもやる。相手もやってくる。これじゃあ五分のケンカや。
ワシはこれとは別の3人に道具とポケベルを持たせて、相手の組事務所のそばで待機させた。
話し合いがこじれる。その場でドンパチや。
と同時に相手の組事務所近くで待機しとる連中のポケベルが鳴る。
 「ぶち込んだれ」いう合図や。
やつらは相手の組事務所に弾ぶち込む。これがヤクザの、しかも勝つケンカや。
 ワシは話し合いに行く連中に、
「金で話しつけたらあかんぞ。何がなんでもケンカにもっていけや」 ゆうて送り出した。
ところが、話し合いがついてしもうたゆうて帰ってきよる。しかも、金を200万円持ってきた。
「なんじゃ、これは!」
ワシかて金は欲しい。だが、ケンカで売り出したい気のほうが強かった。
 ところが、話し合いに行った連中の話を聞くと、女とのもめ事やったという。
「女と別れるゆうてます。ワビ料として200万円出しよったんや」
若い連中の報告聞いて、ワシはカーッとなった。
そして、このもめ事起こしたワシの舎弟の方を見た。
「おのれ!もめ事いうのは女のことやったのか!」
ワシはその金を舎弟にぶつけ、木刀でメッタ打ちにして、半殺しにしてやった。
 ほんまに情けなかった。
女とのもめ事にワシの若い衆に体張らせたんや。その舎弟やなく、自分自身に情けなくなったんや。

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