●4.女のことではヒモ男ともめ事

 これもヤクザやる前の話や。
寿司屋と庭石屋をやっている時に、奈良の生駒ちゅう遊郭によう遊びにいった。
ただ同然の庭石を売りにいって、帰りにそこによって散財する。
たまたま、気に入った女が一人おった。
 
 アケミゆうちょっと頭は悪いが、純な若い子ですわ。
ところがヤクザのヒモがついておった。
どこえ遊びに連れていっても、なんかビクビクしておって、すぐに帰りたがる。
それがまたたまらずカワイかった。
「そんなモン、別れぇ。極道なんて、男のカスじゃ、別れてまえ」と言うても、
「いや別れられへん」
「そないに向こうの男がやさしいんか」 
「いいや、怖いんや」
よし、そんなもん、相手を探して話をつけてやる。
 イカサマバクチをやった親分のとこや、ヤクザの金融屋のところへ殴り込みに行ったりしていた。
ヤクザもんなんか、ちいとも怖いことない思うてた。
その頃は怖いということを知らん、無鉄砲を絵に描いたような男やった。
 女房と結婚したばかりの頃で、その遊郭のアケミのことがこじれて、
家へ連れて帰らないかんことになった。
女房に、
「おい、この子、アケミゆう子や。不憫な子や。なんぞおいしい物でも作って食わしてやってくれ。
今夜、泊めてやってくれ」
 女房はワシの若い衆の女やと思うたらしい。
袖を通しとらんサラの寝巻を着せて、一番風呂に入れて、それはそれは、やさしくしてやってくれた。
 それから、ワシは庭石屋の若い衆連れて、地下足袋はいて、相手の男を捜しに大阪へ行った。
ちょうどそん時、相手の男も、オレのことを気にしていたらしい。
女が最近、よう金稼ぎよるし、時々、外泊しよる。
蛇の道は蛇や。だてにヒモをやっとらん。「どんな男ができたんや」と思っとったらしい。
 ワシのこと調べて「奈良で寿司屋しとるガキやないか。それやったら金とったろかい」
と狙いをつけてきよったらしい。
 そんな事も知らんで、ワシは勢い込んで大阪へ行った。ところが相手の男は家へ行ってもおらん。
その男がよく行くゆう飲み屋や雀荘にもおらん。組事務所にもおらん。
「なんやねん、どこへ行きよったんや!」
さんざん探してもおれへんので、家に帰ることにした。そないして寿司屋の前まで来たら、
運転手が、「おやっさん!外車が2台来とりますわ!」といいよる。
神戸ナンバーと大阪ナンバーのアメ車が止っとった。
 アケミのヒモやっとるヤクザが大きい顔して寿司食っておる。他のお客さんが小さくなっておった。
「おやっさん、お帰りやす」と店のもんが言う。
おかしな雰囲気やから、うちとこの若い衆も寄っとったわけや。
山刀をサヤから抜くなり振りかざす
「おう、おまえがここの親方か。生駒のアケミのことで来たんやけど、
あれ、えらい大事にしたってくれとるらしいやないか」
こっちも探していた、ヒモやっとるヤクザや。
「ああそうでっか。そのことで来てくれましたんか。
ここは寿司屋でっさかい、その話やったら中へ入っとくんなはれ。
関係ないもんはクルマにでも乗って待ってておくんなはれ」
その男を座敷に上がらした。ワシはそん時、もうすでに頭に血がのぼっとった。
 うちの若い衆に、
「おい、入口、締めてしまえ。五寸クギ打ってまえ」こないゆうた。
うちの番頭しとるヤツが、
「あんたはん、どこのどちらはんか知りまへんけど、
そんな話でここに来て、下手打つことおまへんやろな」いうた。
 ワシは話し合いのルールもクソもあるかい、遊郭の女、金で買うて何が悪い。喜んでもらうのが筋やろ。
このガキ、ブチ殺してもどうっちゅうことないわいと思うた。
そのヒモも勝手が違う思うたんか、急にそわそわしだして、
 「どっかの組織の人でっか」 と聞いてきよる。
 「ワシは極道とちゃいますけど、極道やないと話ができまへんのか。
ワシは寿司屋と庭石屋の親方しとるもんやが、どうぞ話聞かせてください」
低姿勢にゆうた。
このヒモ男もそれで安心したのか、見栄ををきった。
 「女はワシにしたら命の綱、しのぎや。
持っとる茶碗叩かれるようなことされて、ワシの男が黙っとれへん」
えらい口の達者な男で、こうぬかす。
 「コラッ、おなごを働かして何をぬかすんじゃ!
おなごに金稼がしておいて、おなごの汁すうて、なにが男じゃい!」
 ワシ、もう切れてもうた。ぷっつんや。わけがわからんようになってもうた。
まず、寿司屋の湯呑み茶碗をヒモ男の頭めがけてバーンとぶん投げた。
なんや、かわしよる。余計に頭にくる。
アホな人間ゆうのはこういうもんや。うちの若い衆に、
 「オイ!山刀持ってこい!」
もう止まらん。うちの若い衆も若い衆や。
待ってましたとばかりに山刀を放り投げてよこした。こうなればやることはたったひとつや。
サヤから抜くなり、山刀を振りかざす。
 「ブチ殺したるわい!」
そのヒモ男は、3メートルぐらい座ったまま後へ跳び下がりおった。
 「ちょっと待っておくんなはれ」
 「待ってくれやと!おのれ極道やろ!」
 「いえ、堅気です」とぬかしおった。
気抜けてしもうた。けど怒りはおさまらん。
 「なんやと、腕ぶち切ってまえ!」
 うちの若い衆も、お調子もんゆうか、心得たもんゆうか、すぐに男を取り押さえにかかる。
 「堪忍してください、どんなことでもします」 そないゆうて頭を、テーブルに突っ込みよる。
 「あほんだら!おんどれが注文つけにきたんやないんか!」
 「金も払います」
 「オレは金くれゆうたか!」 余計頭にきた。
 「アケミとも別れますから」
と泣きよる。泣くヤツの腕は切れん。
けどワシは、何もかも気に食わん。やつらが着ている背広も、乗ってきたどえらいクルマも気に入らない。
ワシの若い衆も同じ思いやったんやろう。
表の2台のアメ車をガラス全部割って、クチャクチャにしたうえで、
ヒモ男と一緒についてきたチンピラをド突き倒しとる。
今度は女の方をしゃっきりせなあかん。
 「よし、女と別れるゆうたな。今後、一切、手ぇつけなや。そのかわりオレも別れたるわい、忘れたる」
 あとのこと考えんとえらいことゆうてしまった。なんでアケミと別れんならんのや。
ええカッコしいだけや。けど、もう引っ込みがつかん。
女房にゆうてアケミを呼び寄せた。アケミが今まで腐れヒモ男に、200万円貢いだゆうから、
 「それ払うたれや、あんばいようしとけ」
とゆうてヒモ男に一筆書かせた。
ヒモ男達はフロントガラスも割れてガタガタになったアメ車で帰っていきよった。
 ところが、このいきさつが女房に全部ばれてしもうて、しばらく口も聞いてもらえんかった。
ほんまに男の見栄ゆうのは、いつの時代でも辛いもんや。

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