●3.人に頼まれ、またヤクザともめ事

地元のヤクザの親分の家へワシが一人で殴り込みに行った話は、
すぐに尾ヒレがついて広がった。
 
 最初は「えらい、バクチに負けたらしい」と噂がたち、その一ヶ月後ぐらいに
「向こうの親分がヤクザをやめたのは寿司常のおっさんにケジメをとられたからや」
という噂が流れる。
そんなカッコええもんとはちゃうがな。瞬間湯沸かし器に火がついただけのことや。
そのころ、ワシは故郷の奈良県五條市で寿司常ちゅう寿司屋と大和庭石店ちゅう庭石屋をやってた。
 まだ、23、24歳のころや。高校時代から「ごんた」やってたし、
ヤクザの親分のところへ殴り込みに行ったということで、
いろんな不良や悪さしている連中が集まってくるようになる。
「ごんた」ちゅうのは、関西の言い方だが硬派の不良という意味やな。
 
 このころ庭石屋がえらい儲かりましてな。
タンスのなかにいつも5〜6000万円は放りこんでおいたぐらいや。
こんなんしてるさかいイカサマバクチにやられてしもうたんやが……。
 庭石屋いうても、実は山や川の石を黙って盗んでくるんや。
それを東京や名古屋、京都と売りに行く。トラック一台6万円や10万円で売れる。
トラック10台ぐらいあって、若い衆が20人からおった。
「大和庭石店」と染め抜いたハッピまで作ってヤクザまがいのことをしておった。
それが楽しかった。
 みんなでつるんでそこら遊びにいって、なんぼ金つこうても残る。
なんせ元手いらずの商売や。まあ、ガソリン代ぐらいやね。
 金はあるし、若い衆は「おやっさん、おやっさん」と慕ってくる。
ワシも悪い気はしない。そうこうするといろんな相談事や、話が持ち掛けられる。
ワシの性格からいって人に頼み事されればイヤとは言えん。
義侠心が強いといえば格好いいが、早い話がええカッコしいなだけや。
そうこうしておるときにバクチ仲間から、こんな相談事が飛び込んできた。
 
 和歌山で人を7〜8人つこうて小さい繊維工場をやってる社長が、
地元のヤクザの金融屋に金を借りた。50万か100万円か知らんけど、
金の支払いが滞こうて工場の機械を持って行かれた。機械がなかったら仕事でけへん。
「おやっさん、ひとつ話したってくれまへんか」ちゅう訳や。
 またヤクザとのもめ事や。嫌な話やけど頼まれたらしゃあない。
深く考えもせんと、今は大組織の組長になっとる、その仲間を道案内役にさせ、
後にワシの舎弟になった若い者に車を運転させて行ったんや。
ヤクザの金融屋と直談判
 ヤクザの金融屋ゆうても、当時、和歌山で売り出し中の親分やった。
ワシが行ったとき、両腕に唐獅子の刺青を入れたそこの親分は、ちょうど風呂上がりで、
ビールを飲んでいた。ほかには姐さんと若い衆が一人いただけやった。ワシ、挨拶もそこそこに、
「繊維工場の社長とこの件で来たんやけど、
金返しますさかい、機械返してやっておくんなはれ」といった。
 そうしたら、「事の事情を知って来ましたんか?そんなもん、利息も払うてませんのやで」
とメチャクチャな利息をふっかけよる。
貸し金の半分やけど、ワシが立て替えて払うたろう思うて持っていった。
「あんたも極道やっとって親分と呼ばれる人やったら、堅気の人間を助けてやるのが、
ほんまもんの親分ちゃうのか」
 その頃、ワシはヤクザの筋や道のことや、話の仕方もわからんかったが、
ともかく、そう言うてやった。
親分は面倒臭そうに、ビールを飲み干しながらこないゆうた。
「あんた、寿司屋の大将らしいけど、何を生意気なことをぬかしよるんや。
市場で魚買うみたいにはいかん。筋ちがいでっせ、もう帰んなはれ。
こんなことに口はさむのは10年早いわ。玄関の名札見てきたんかい」
 何をコノーッ!とまた頭に血がのぼった。
気付くと姐さんが裏から事務所の若い衆に電話をかけとる。
ものの10分もたたんうちに車が何台もとまって、ダンダンダンと走ってくるのが分かる。
玄関あけて入ってくるなり、抜き身の刀を持ったヤツが、8人ぐらいいた。
一緒についてきた舎弟が、炊事場の刺身包丁をパッとワシに渡しよった。
 そのころドス扱いはよう知らんかったが、寿司屋やっとるから、刺身包丁ならこっちのもんや。
受け取るなり親分のエリ首をつかんだ。相手もよう動けん。力だけは誰にも負けん。
「オイ!待てェ!」
けど、この親分は動じることなくワイの目を見据えて言い放った。
こん時、この親分にワシの目を見据えてもらえんかったら、このままグサリといったかもしれん。
なんせこっちは勢いだけでしたからな。
「ワシは、この件を人から頼まれてやったきたんや。まとめんうちは生きて帰られへんのや」
と無我夢中で言った。半ベソかいていたかもしれんが、本心やった。
「よし。あんたの度胸にワシはほれた。わかった」と親分が言うてくれた。
 金は半分しかない。ワシ、とにかく持参した金を差し出して、
「あとは社長が払うから辛抱してやっておくんなはれ。
あした、機械を取りにくるさかい、よろしゅう」と頼んだ。
 帰りがけに親分から、
「あんたも体大事にな。無鉄砲にどこでも言ったらどんな人間がおるか分からん。
たまたまワシがあんたの気持ちにホレただけのこっちゃ」
 と言われ、もう汗ぐっしょりや。
帰りの車に乗った瞬間、ワシ、パッと気失った。
度胸があるゆうても、しょせんこんなもんですわ。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です