●15.「人にモノ教えんのに限度はないんや」

 新人教育で一番難しいのがヤクザ社会とちゃうやろか。礼儀作法を覚えたけりゃ、
しっかりしたヤクザの事務所で1年勤めたらええ。そない思うぐらいや。
 ワシも厳しく新人教育した方やが、ホンマゆうたら失敗だらけなんや。
事務所のカネを持ち逃げされたことは何回もある。
ワシが見込んで、スーツや靴から車まで買うてやって、「マンション借りや」ゆうて敷金渡したら、
翌日から事務所に出て来んようになった者もいる。
けど、ヤクザが「持ち逃げされました」なんて警察に届けるわけにはいかん。
ヤクザも泣き寝入りすることがあるんや。
 冬の寒い時やった。少年院帰りの新入りが不始末をやりよった。
もちろんド突き倒すが、何辺ド突いても手癖の悪いヤツはどうにもならん。
盗人とウソをつくことは絶対に許せん。
 ワシ、そいつを素っ裸にし、針金でグルグル巻きにして、水風呂につけておいた。
用事ができて出掛けることになった。風呂場のヤツ、どないするか迷ったが、
「まあええ、ほっとけ」てなもんや。
ワシがいない時に兄弟分がやってきた。風呂場をのぞいたら、
そいつは血の気が全然なくて全身が紫色になってたそうや。
 兄弟分は「殺してしもうたら、どないするつもりや。何でも限度ちゅうもんがあるやろ」
とワシを諭す。
けどワシはこう答えた。
「なんぼゆうてもきかんガキや。人にモノ教えんのに限度はないんや。それで死んでしもうたら、
それだけの人間ちゅうことや。後始末はワシが全部引き受けたらええんや」
兄弟分は、あきれていた。
 ヤクザの事務所には、いろんな嫌がらせ電話も入ってくる。
「おんどりゃ、これからカチコミ(殴り込み)に行ったる。覚悟して待っとれや!」
なんて電話もようかかってくる。
こんな電話を取るのも新入りや。そないな電話あったら、慌てずにこない言えゆうてある。
「オォ、上等や。玄関開けて待っとるから、ちゃんと道間違えんと来いや!」
 売り言葉に買い言葉や。けど、新入りはビビッてしまう。
ドスを利かせて、これをきっちり言えるようになったら一人前や。
 ある時、こないな電話があって、電話はきっちり対応したらしい。
本人はうまくいったゆうて満足や。けど、ワシらへの報告を忘れてしもうた。
イタズラ電話はいちいち報告せんでもええのやが、
相手が組の名前と個人名をハッキリ名乗った時は報告するのが決まりになっとる。
 しばらくしたら、ほんまに殴り込みに来て、ハジキ(短銃)5〜6発撃ち込まれてしもうた。
突然、事務所ん中に弾が飛び込んできたのにはワシもビックリした。
ヤクザ社会でも、一般に会社でも、ホンマに新人教育は難しいもんやで。

● 14.アコギなシノギがヤクザの世界

 ワシはほんまに金儲けのできんヤクザだった。けど、ヤクザゆうたら、とにかく銭なんや。
銭がないことにはどうしようもない。
チンピラ時代は親分や兄貴から小遣いもらうが、いつもピーピーしとった。
 そこで、いろんな知恵がつく。
チンポコの毛を全部そってから、銭湯に行く。そして番頭のオッサンにかみつくわけや。
「ここで毛じらみもろうてしもた。こないな格好じゃどこにも行かれん。女にも笑われてしまう」。
体には金太郎さんの入れ墨入っとる。20年ほど前のことやったが、2000〜3000円はくれた。
 まあ見舞金ゆうわけや。1軒だけやったらもったいないゆうて近所の銭湯もみな回る。
ええ小遣い銭や。若い者、何人かおるから、そいつらのも全部そらせて、銭湯回りや。
 それと、パチンコ屋の開店や。
たいていのパチンコ屋は組の事務所の方に挨拶ゆうかショバ代払うんやが、
中には払わんところもある。そないなところは若い者の出番や。
開店と同時に店になだれ込んで、組の名前入ったマッチ箱を置いて歩く。
ほかの人が先に台を取っても、
「オイ、どけや!」
客の方は組の名前知っとるから、
「ヤバイ」
思うて帰ってしまう。これでこの店はたいてい事務所の方に挨拶に来る。
 けどこれやったら組の収入になってもワシらに金入らん。そこで暴れる。なんでもええ、
いちゃもんつけて、ちょっと突っぱっとるパチンコ屋の店員が一言でも何かゆうたら、
「何や!」
言うてパチンコ台のガラス全部割るんや。ワシも1度だけ大暴れしたが、これで有名になった。
ワシがどこぞのパチンコ屋に、ちょこっと顔出しただけでも、店長は青ざめて金出しよる。
 アコギなもん飲み屋もおんなじや。気にいらん飲み屋があったら、若い者と一緒に開店から入る。
一見してヤクザいう格好して大きな声で、
「兄貴!」 「兄弟!」
 ゆうて堅気の客にガン飛ばし、ニラミ倒す。けど決して手は出さん。カラオケのマイクも独占や。
歌うのはヤクザの歌ばっかりや。こんなん1週間も続ければ十分や。ほかの客は来なくなる。
暴れ回らんでも、飲み屋の1軒や2軒つぶすのはわけはない。
 こんなのはシノギ(仕事)ゆうより、人間のクズのやることや。
けど、ヤクザやっとると感覚がマヒする。セコイ話しや。
 セコイゆうたらこんなセコイこともやった。腹減って、食堂行ってカレーライス注文する。
八分ぐらい食うてからポケットに忍ばせとるゴキブリ放り込む。
店のオヤジは「すいません」ゆうてもう一杯、新しいカレーライス持ってくる。
1杯分の値段で2杯食える。ヤクザゆうて肩いからせとっても、しょせんこの程度なんや。
ヤクザでも大事です新人教育
ヤクザやってて、一番、大事なのが新人教育や。
10代半ばでワシらんとこへ来て、ヤクザなりたいいうんは、ハンパなヤツが多い。
芸能人に憧れて、芸能界に入りたいゆうのと五十歩百歩や。それ以上かもわからん。
 ヤクザになると、車に金、女にも不自由せん。
それどころか、ごっつう金儲けできて、大きい顔して、肩で風切って街歩ける。
そんな憧れでこの世界に足踏み入れるヤツばっかりや。
 少年院帰りもザラや。色気だけはついとるが、字も満足に書けん、掛け算の九九もいえん。
けど悪知恵だけはついとる。学校も仕事も、こらえ性がのうてやめてしもた連中や。
こういう連中が、100人おったとして、まっとうな極道になれるのは二、三人や。
ヤクザゆうのは厳しい世界なんや。
 ワシは新人の教育が厳しいんで有名やった。たいていの連中はついてこれん。
けどワシんとこで修行積んだモンはみな一人前になっとる。
 最初は電話番や。けど、これが難しい。
一般の会社でもそうやろけど、電話の応対でその会社や組の実力ゆうか内容が分かるんや。
電話のベルは1回や。ベルが2回以上鳴ってから出るようなトロイのは受話器で頭をぶん殴る。
そして、腹の底から、「山本組!」という。
トチったり声が小さいと、灰皿で頭割られたり、ド突き倒される。
 口べたな人間でも、便所や風呂場の中で一生懸命練習や。
寝言では、ようしゃべれるのに、いざ受話器を持ったらゆえん。不思議なこっちゃ。
そやけど、しまいには石の地蔵さんさえしゃべらすぐらいになる。
 「失礼ですが、どちらさんですか」と聞く。聞いたら繰り返すんや。
「○○組の○○さんですね」そないゆうて親分や兄貴たちの様子見る。
なかには電話で話したくない人間もいる。様子見て、
「少々、お待ちください」ゆうか、
「ただいま不在ですが、もしよろしければ用件を伺いますが」
のどっちのセリフゆうか判断するんや。
 事務所の掃除、使い、たばこの火つけ、お客さんの送り迎え。話すときは、全部直立不動の姿勢や。
給料なんかあらへん。事務所に寝泊まりして、飯は兄貴たちに食わしてもらう。
たまに小遣いもらうだけや。
 この小遣いもろうて、酒と女とバクチに使うてしまう者が多いが、
もろうた小遣いためて、いざちゅうときのために道具(短銃などの武器)を買うもんもいる。
こういうのが出世する。
 最近は、礼儀作法や口のきき方を知らん若い者が増えたが、そんなんは教育する方が悪いんや。
教育ちゅうのはド突き倒そうが、頭カチ割ろうが、徹底せなアカン。
こうして体で覚えたことが結局、最後には本人の財産になるんや。
 こないゆうたら笑われるかもしれんが、ほんまもんのヤクザになれる人間はほんの一握りや。
ほんまもんのヤクザになれる人間は、どこの社会に出ても一人前になれる。
 ハンパモンにはヤクザは向いとらん。矛盾しとるようだが、これも現実や。

●13.友達や後輩には迷惑かけられん

ヤクザやっとって、つらいことばかりやったが、その中でも一番つらいのは、
浪商時代の同じ野球部のメシを食った友人たちの存在や。
 ヤクザは、親分、子分の盃かわしてから、まず、ほんまもんの親との縁を切る。
縁を切るだけやったらええ。
次に親兄弟を食いもんにする。そして次に友達も食いもんにすんのや。
自分の身近にいる者から順に金をむしり、時には、ワナにはめ、
利用して骨の髄までしゃぶり尽くす。これが、ヤクザの生き方や。
 けど、ワシはこれができんかった。
そりゃ、親からはムシリ取ったこともあった。けど浪商の友達にはできんかった。
 ヤクザゆうたらバクチがつきもんや。大阪ゆうたら野球賭博や。
ワシの浪商時代の友人に、その頃、プロ野球で活躍しとった張本勲がおった。
浪商の後輩には、世界ジュニアバンタム級統一チャンピオンになった渡辺二郎もおった。
 悪い知恵働かせば、なんぼでも金儲けできたかもしれん。
けどヤクザやっとって、それだけはしとうなかった。
エエかっこに聞こえるが、これだけがワシのとりえやったんや。
 ハリが、西宮球場に来た時や。ワシはヤクザやっとるから、絶対球場には行かん思うてた。
けどやっぱりハリの晴れ姿を一目見たい思うて、若い衆連れて球場に行った。
ハリはもう東映フライヤーズの4番打っとる。
一段とたくましゅうなったハリのユニホーム姿、見とってジーンときた。
若い衆にもハリと一緒に野球やっとったゆうんは隠していた。
 ところが、ヤジがひどい。ひどいちゅうもんやない。聞くに耐えんヤジが飛ぶ。
アカン。ガマンできん。もう辛抱できん。
そのヤジを飛ばしとるガキは、向かい側の観客スタンドにおる。
 ワシ、立ち上がると、向こう側の観客スタンドへ一直線や。
ワシはそのヤジ飛ばしたガキを見つけだして、引きずり回し、
「オンドリャー」 ゆうて蹴り上げ、ド突き倒した。
 そうなったらもうスタンドでケンカや。ガチャガチャや。試合が中断するほどや。
ワシ、球場の派出所に連れていかれた。それでも腹の虫はおさまらん。
でも、派出所のお巡りさんもワシの気持ちを理解してくれた。始末書だけで帰してくれた。
ワシはシノギはできないタイプだった。
ただ、ケンカだけは誰にも負けんかった
 それ以来、ハリの試合は一度も見に行かんかった。なんか問題起こしたらハリに迷惑かかる。
結局、ハリの試合を実際に見たんはその一度きりや。
 渡辺二郎もそうやった。後輩ということで、少し面倒見たことがあって慕ってくる。
そりゃ、ええ男やった。ボクシングやる時も相談があった。
「やるからには、世界一になるんや」 とゆうてやった。
 これも一度だけ若い衆連れてリングサイドに応援に行ったんや。
そないしたら二郎のヤツ、リングの上からワシに挨拶する。そしたらみなワシの方を見る。
ワシらはどない見たって、本物のヤクザ以外に見えん。
ヤクザもんと二郎の関係が取りザタされたら困るやろう。
 結局、渡辺二郎の試合も一度見に行ったきりや。
友達や後輩には迷惑かけられん。
ヤクザもんは自分から友人たちの前から姿を隠すんや。これがワシの半生やった。
シノギ(仕事)はバクチとケンカ専門
ヤクザのシノギ(仕事)ゆうたら、バクチ、シャブ(覚醒剤)、売春、債券取り立て、用心棒、
もめ事の仲介などいろいろあるが、ワシはシャブと女のシノギだけは手ぇ出さんかった。
 ワシは、結局、シノギゆうか金儲けはできんタイプやった。
バクチとケンカ専門や。ケンカだけはだれにも負けん思うていたし、
道具(短銃などの武器)だけはメシ食わんでも最優先で手に入れた。
ホンマモンのチャカ(短銃)が30万から50万円。
一時期は米軍のM16ゆうごつい自動小銃を持っていたこともある。これが300万円やった。
 最近のヤクザは、商事会社や不動産会社を経営して、
金融や地上げ、株取引などでごつい金儲けするようになったが、
ワシは時代の波に乗り遅れた極道やった。はっきりゆうてアホやったんや。
 月に二度、散髪に行くだけの頭しかないんや。
せやから、金もうけできんからいつも金で苦労した。
 ワシの兄貴でこんなことやって金もうけした人がおった。
街の金融屋から金借りる。極道専門の金貸しもいるぐらいやから、その筋のもんとも関係はある。
3000万円、5000万円と借りる。借金やから返さなアカン。期限がくる。
けど、返す金はない。金融屋はその筋の人間に頼んで取り立てに来る。当然や。
 そこでワシの兄貴分は、若い者にその辺におるノラ猫やノラ犬を拾うてこさせて
体洗うてきれいにしとく。まあ即席のペットちゅうわけや。
 借金の取り立て屋が来る。兄貴分は、ニコニコ笑うてペットの猫を抱いて応接間に通す。
「何の用事でっしゃろ」 とゆうて猫に頬ずりせんばかりに、「ヨシ、ヨシ」 とかわいがる。
取り立て屋が用件を切り出す直前になって、抱いとる猫の足かなんかを分からんようにつねる。
そないしたら、猫はギャーと鳴いて、持っとる手をひっかく。
そこで血相変えて、「このガキャー!」 と言って、
机の引き出しから22口径のハジキ取り出し猫の口に銃口ねじ込んで、バーンや。
頭が半分飛んでしまう。そ知らぬ顔で若い者に「片づけておけや」 ゆうて、再びニコニコ笑う。
 「あっ、えらいすんません。ところで、何の用でっしゃろ」 と取り立て屋に聞く。
たいていの取り立て屋は、用件もいわんと青ざめて帰ってしまう。
ひどい話しや。
その兄貴分の事務所の周辺には、ノラ猫やノラ犬の姿がばったりと見えなくなった。
ヤクザはどんな汚い手でも平気で使う。
 極道から足を洗った今でこそ、「ヤクザなんて、ろくなもんじゃない」 といえるが、
そのころのワシは「男になりたい」 そればっかりやった。ほんまにアホやったんやなぁ。

●12.舎弟のために「女のもめごと」

 ヤクザの世界は、親分のいうことは絶対や。
ワシは諏訪組系淡路会の大西会長の子分になったが、刑務所帰りちゅうことでハクがついた。
しばらくしてから若い者頭に抜擢された。そりゃ大出世や。
入社そうそうの営業マンが、商品をひとつふたつ売ったかて、営業部長にはなれん。
ところがワシの場合、一息に常務になったようなものや。
けど、ヤクザいうんは上に行けば行くほどツライ商売なんや。
 若い者の面倒は見なきゃならん。かといっていざケンカとなれば先頭きって行かにゃならん。
親分も男にしなきゃならん。ヘタ打ったら、すべての責任を背負わなならん。
組織を大きくせなならん。これが頭の宿命ちゅうもんや。24時間、ほんまに休める間がない。
 極道の世界に入って10年ほどで一家を持って組長になったが、
組長になったら少しはいいめ見られるやろう思うていたが、それがまた違う。
子分の中には出来のワルいのもおって、つまらんケンカをしてくる。
酔っ払った上のケンカでも、組あげての抗争になることもある。
金と女でええ思いすることもあるが、金で苦労することの方が多い。
 1年365日とすると、ええ思いすんのは5日ほどや。あとの360日はツライことばっかりや。
そりゃ金の入った時は、盆と正月が一緒に来たようなもんや。
女房や子供連れて、若い衆連れて、百貨店ごと買うたるゆうぐらいの勢いや。
けど落ち目に時は、目もあてられん。
ごはんに醤油かけて、おしんこのしっぽかじって1ヶ月間過ごすこともある。
 親分のためや、組織のためやゆうては、
自分なりの言い分をつくっては、ほんまに悪いことも仰山やった。
 ケンカ専門や、武闘派やいわれていい気になってたが、ワシは本当は気が弱かったんや。
ケンカ好きやったのは、やっぱりヤクザの世界では強いのが法律や。
そん中で男をあげるのはケンカしかない。そう信じとったんや。
 ワシも女は好きや、そやけど女のことでウジャウジャするのは大嫌いや。
だからヤクザやっていても、女とシャブだけは手ェ出さんかったし、若い者にも禁じとった。
ところが、ワシが刑務所を出たばっかりのころ、
京都の雄琴のソープランドの女のことである組ともめてしもうた。
いや実は、女のことだと知らずにもめてしもうたんや。
ワシの舎弟が、しばらく刑務所に入っとって、出てきた。
この舎弟はワシに隠しとったが、ずーっとソープランドの女のヒモをやっていた。
ところが刑務所に入っとる間に、女がある組の女になってどこかへ連れていかれてしもうた。
自分で何とかしよう思うたが、どうも話がこじれそうになった。
 そこでワシに相談した。
けどワシもワシの若い者もヒモなんて御法度や。
そこでワシに女のことは隠して、相手の組と交渉してくれちゅうことになった。
ワシにとってほかの組との交渉いうんはケンカのことや。
ワシは女のもめ事とも知らずに、
こりゃ売り出す大きなチャンスやと思うて、そのケンカを買うてしもうたんや。
組とのケンカで売り出すつもりが…
 その交渉ゆうか、話し合いは、相手も5人。こっちも5人や。
待ち合わせの場所は名神高速道路のあるインターそばのレストランや。
ヤクザの話し合いはうまくいく時もあるが、うまくいかん時もある。うまくいかん時はケンカや。
もちろんケンカとなればルールはない。勝ってなんぼや。
 それで、まず話し合いに行く5人のほかに、3人を、車に乗せてケツにつけさせた。
話し合いに行く連中はもちろん丸腰や。けど後ろから行ったヤツには道具持たせる。
話し合いがこじれたら、38口径の拳銃をぶち込むんや。
 まあ、ここまでやったらだれでもやる。相手もやってくる。これじゃあ五分のケンカや。
ワシはこれとは別の3人に道具とポケベルを持たせて、相手の組事務所のそばで待機させた。
話し合いがこじれる。その場でドンパチや。
と同時に相手の組事務所近くで待機しとる連中のポケベルが鳴る。
 「ぶち込んだれ」いう合図や。
やつらは相手の組事務所に弾ぶち込む。これがヤクザの、しかも勝つケンカや。
 ワシは話し合いに行く連中に、
「金で話しつけたらあかんぞ。何がなんでもケンカにもっていけや」 ゆうて送り出した。
ところが、話し合いがついてしもうたゆうて帰ってきよる。しかも、金を200万円持ってきた。
「なんじゃ、これは!」
ワシかて金は欲しい。だが、ケンカで売り出したい気のほうが強かった。
 ところが、話し合いに行った連中の話を聞くと、女とのもめ事やったという。
「女と別れるゆうてます。ワビ料として200万円出しよったんや」
若い連中の報告聞いて、ワシはカーッとなった。
そして、このもめ事起こしたワシの舎弟の方を見た。
「おのれ!もめ事いうのは女のことやったのか!」
ワシはその金を舎弟にぶつけ、木刀でメッタ打ちにして、半殺しにしてやった。
 ほんまに情けなかった。
女とのもめ事にワシの若い衆に体張らせたんや。その舎弟やなく、自分自身に情けなくなったんや。

●11.ヤクザ最初の刑務所つとめ

ほんまもんの極道になる決心をして、奈良から大阪に出た。
ほんまもんの極道になる決心をして、奈良から諏訪組系淡路会の大西敏夫会長のところに世話になったが、
そのころの淡路会は20人ほどしかおらんところに、
ワシの若い衆が20人もついてきたんで、いっぺんに淡路会は大きくなってっしもうた。
アパート借りてメシ食わしてもろうたが、いま、考えるとほんまに迷惑かけたと思う。
 なんせそのころのワシらゆうたら、金もうけなんか全然知らなかった。
ゴンタゆうか、ケンカだけやっとればいいと思っていたんや。
ワシも後になって一家構えて分かったが、そんなんはあとの祭りや。
 ワシらの頭ん中には、ケンカしかなかった。
当時、ヒト一人殺したら5年やった。
はよう刑務所行って、金バッチつけたい。そればっかり考えとった。
 そないしとると、あろ日、親分の親しい寿司屋のオヤジが、酔っ払った客に刺された。
ワシらは、みんなと親分の家でメシ食ってたが、その寿司屋のおかみさんから泣いて電話があった。
ワシらは、親分と一緒に駆けつけた。
親分は寿司屋に着くなり、
「どいつじゃ!」
ゆうて、すし屋のブ厚いマナ板を持ちあげ、刺した男の頭をポーンや。
男はひっくり返ってアワ吹いて目ェむいとる。
「こりゃアカン。死ぬぞ、病院連れてきや」いわれてワシ、病院へ担ぎ込んだ。
ところが、あたりどころが悪かったのか、その男は1週間ほどで、死んでしもうた。
警察が来よった。
あんなブ厚いマナ板持ってド突くような男ゆうたら、相当力のある人間や。
警察から、
「そんな力あるのだれや」と聞かれて、
「ワシや」と答えた。親分の身代わりになったんや。
 傷害致死や。裁判受けて、大阪刑務所に2年、これがワシの最初のつとめになった。
「これで男になれる、出てきたら金バッチや」と意気揚々と刑務所にいった。
 ところが、刑務所いうところは、ほんまにエライとこやった。先輩に聞いとった話と全然違う。
町の乞食でも着んようなぼろぼろの服きせられて、うちの犬でも食わんようなものを食わす。
この世の中にこんな所があるんか、思うたぐらいや。地獄とはこんな所をいうのやろう。
しかもワシは態度は大きい、すぐに口答えするゆうて、袋かぶされてド突きまくられる。
何度も懲罰房に入れられた。
 刑務所行って、鉄格子から真っ赤な空が見える。窓の外にイワシ雲がパーッと浮かんでいる。
生まれたばかりの子供はどないしてるやろう。夢見るのもガキのころのことや。
初恋の女の子がセーラー服着とる。そして田舎の夕暮れの光景や。
 ワシの絵は、赤が多いいわれる。紅葉の赤、夕暮れの赤や。
ツライ思いして、2年間のつとめを終えたが、ヤクザいうのは、泣いて辛かった事はひとつも言わん。
見栄と虚勢の世界や。本音はひとつも言わん。かっこばかりつけとる建前の世界なんや。
殴り込み初体験
親分の身代わりになって傷害致死罪をかぶって、大阪刑務所で2年間つとめた。
出所の日に、親分や身内のもんや、みんなが出迎えてくれる。
刑務所の中であんだけツライ思いしたのに、ゲンキンなもんで、「ごくろうさん」の声に
つい、高倉健や。またその気になる。
 出所すると、やっぱりみんなの見方が変わってくる。兄貴分が、副会長になっていて、
ワシに若い者頭になれゆうてくる。そのころには淡路会の組員が120人からに増えとった。
 兄貴から
「オレに命あずけてくれ」といわれて
「よっしゃ」てなもんや。
「いつかワシも親分になってやる。そのチャンスがやっと来た」と思った。
 最初によその組に殴り込みに行ったのも、この時や。
殴り込みやるとなったら、大きい刀は部屋ん中では、よう使いこなせん。短いヤツや。
それも布で手にぐるぐる巻きにする。こないしたら叩かれても絶対に手から離れん。
週刊誌を濡らして腹にサラシできつく巻き込む。そのうえ火バシを両の腕に巻きつける。
こないして腹と両の腕を守って、頭に鍋くくって、地下足袋履く。
これが当時の殴り込みスタイルや。
 その時、一緒に殴り込みに行ったのは3人やった。車に乗り込むとき、後部座席の真ん中に
乗ったら出るのが少しでも遅くなるから、ちょっとでも助かるな、いう気持ちは本心にはあった。
けど、それじゃ格好がつかん。相手の事務所の前に着いたら電気がパァーッとついとった。
抜き身のドス持ってドアを蹴破ったが、よう見るとドアがほんの少し開いとる。
しかし、興奮しとって何が何やらよう分からん。
酒なんか一升ぐらい飲んどってもちぃとも酔えへん。
 バァーッとドア蹴飛ばして、中へ入る。ところが、敷居につまずいて転んでしもうた。
すぐに立ち上がろうとしたが、コロコロひっくり返って立てへん。
足がしゃちこばって立てへんのや。立っても、またひっくり返る。
「ウワァーッ」と声だけしか出ん。
そないしたら頭の上で、「バン!バン!」と拳銃2発、撃たれた。
 ワシはしょんべんと冷や汗やなんかでもう体じゅうがベタベタや。
もうアカン思うたが、とにかくその拳銃持っとる男にかかっていった。
そないしたら、なんか様子がおかしい。拳銃持っとるヤツが、
「待て、待たんかい」ゆうて逃げよるやないか。おかしい思うがな。
 そないしたら後ろに兄貴がおった。
後から分かったんやが、兄貴が先に行って話をつけておったんや。
さすがはワシが惚れた兄貴分や。不様なのはワシや。
 これがワシのヤクザになって最初の殴り込みや。みっともない話やけど、ほんまの姿や。
高倉健の映画もように格好よくは絶対にいかんのや。