●21.ドイツ人と通訳通して追い込み

これは東京で警視庁にパクられた時の話や。
ワシの知り合いの材木屋やっとるおっさんが、ドイツ人から木材を輸入した。
注文したのは最上級のAランクの品物やったが、日本に届いたのはCランクの物やった。
 金はもう支払ってある。2億円ぐらいの損や。
クレームはつけたらしいが、そのドイツ人も、ヤクザまがいゆうか、マフィアまがいゆうか、
すんなりと認めんらしい。
 しかも、いつも5〜6人のボディーガードつけて、
なんでもそいつらはハジキ(短銃)も持ってるらしいゆう噂や。
 商売人同士のトラブルなら商売人同士でケリつけてもらうのが筋やが、
どうもそのドイツ人は堅気とは思えん。
外国のマフィアかなんか知らんが、そんなもん日本で大きな顔されたら、ワシら日本の極道の恥や。
 ワシはすぐにハジキ持って東京へ向かい、そのドイツ人が泊まっているホテルへ行った。
話するゆうても相手はドイツ語や。通訳入れてドイツ語で「追い込み」や。
外人相手に外国語で追い込むのは初めてやが、
日本語もまともに分からんワシが通訳介して外人を追い込むのは後にも先にもこれが初めてや。
 ところがそのドイツ人もワシらの素性を感じたのか、金渡すから手ぇ引いてくれゆう。
ドルでいいよった。ドルがなんぼのもんかワシにはわからんが、日本円にすると2000万円ぐらいや。
 「何ぬかしよる、このガキ!」
この大阪弁を通訳に言わせる。けど、通訳は義理とか人情ゆうの分からんゆう。
「日本のヤクザなめたらアカンで。ワシは義理あって話し合いに来とるんや。
ワレは、それを金で片つけろとはどない意味や。ワシの義理を安う買うてくれたな」
 ワシ、ハジキ出して、その銃口でドイツ人のこめかみグリグリ押しつけて、日本語でゆうたんや。
通訳は青ざめて、しょんべんちびりよる。ワシ、通訳を蹴り上げて、
「オレのいうこと伝ぇェ。向こうは何ぬかしとるんじゃ。ウソついたらあかんで、オンドレもいてまうぞ」
とゆうてやった。
 通訳はワナワナ震えて、
「そのギリは、いくらで買えるのか、といってますが……」
「アホンダラ!ワシの義理を安う買うてくれたな、いう意味は、義理の値段つりあげとるんやない。
義理いうのはなんぼ札束積んでも売り買いできるもんやない。ワレ、大学出とるんやろう。
そんくらい通訳できんでどないする。そんでもワレ、日本人か!」
 通訳はますます縮こまる。
ワシ、日本語で、
「ヤマトダマシイ、サムライ、ヤクザ、ギリニンジョウや。ハラキリ、ぶっ放すぞ!」
とゆうてチャカの撃鉄を起こした。
そないしたらそのドイツ人、土下座しよった。ワシの日本語の方がよっぽど通じるちゅうもんや。
情けある女検事に目こぼしされる
ドイツ人への追い込みは、大成功や。
ワシは上得意で、明日は金になると思うて、持ち金全部使うて、宿泊先のホテルへ1泊した。
そないしたら翌朝、迎えに来るはずの相手の社長じゃなくて、警視庁の私服の刑事が20人ほど来よった。
 ホテルはぐるりと警視庁の車やパトカーが囲んでいる。
しかも刑事連中は防弾チョッキまで着込んでる。
 ドイツ人の連中、あれから大使館に駆け込み、警察にタレ込みよったんや。
銃刀法違反に恐喝未遂、不法監禁、それに暴行と何でもかんでもつきよる。
 けど、ワシかて逮捕された時はハジキは持っていない。
刑事さんもさすがに日本人や、ワシの心情は理解してくれた。
けど、心情を理解しとったんじゃ刑事も商売にならんわな。
 ワシはこういう性格しとるから、パクられたら全部罪は認めるんや。その上で、
「今度は、関西じゃなくて東北の刑務所へ行きたい」
とゆうてやった。そないしたら取り調べの刑事はこう言う。
「山本、普通なら何とか言って罪を免れようとするんだが、あんたはそんなに刑務所に行きたいのか」
 「ワシかて行きたくはない。けど、外人にコケにされて、謝ってはおれませんわな。
やったことは現にやったんや。今ここへ来て泣きを入れるんやったら、初めからしまへんわな」
と、ワシはゆうてやった。
 そないしたら、刑事がえらいワシのことを気に入ってくれた。
検事調書を取ることになったが、こん時の女検事をワシのこと気に入ってくれた。
この女検事は梶原一騎(故人)なんかを起訴した人や。この人にかかったら大抵の者が起訴される。
とくにヤクザを毛嫌いしとる検事やった。
 その検事がこないゆう。
「あなたの考え方は古い。清水の次郎長以前のヤクザだ。
今の時代、そんな考えでヤクザをしていてはやっていけない。あなたは2世紀古い」
 ワシはもちろん起訴されて、何年かまたクサイ飯食うもんやと覚悟しとった。
ところが、罰金刑やという。ワシ、それ聞いた時、不思議な顔したわけや。はんまに不思議やった。
 そしたらその女検事が、「不足ですか」と言いおった。
結局、ワシが罰金10万円、ワシと一緒に同行した兄弟分が罰金8万円や。
 その女検事は別れる時にこう言いおった。
「山本さん、あなたはもう東京に来てはいけない。
あなたの顔を見ただけで2年か3年は刑務所に入れたくなる」
ワシは深々とお辞儀して、「えらい迷惑かけました。もう二度と東京へは来まへん。
あんたみたいに情けのある検事さんは初めてでした。
ヤクザしてへんかったら、惚れてたか分かりません。あんじょう、おおきに」
と、ゆうてやりましたがな。
 この事件は、当時の新聞にもデカデカと載った。
けど、こん時、思うたのは、警視庁の取り調べゆうのは屁みたいなもんや。
こないゆうたらお世話になった刑事さんには申し訳ないが、大阪府警とはえらい違う。
雲泥の差がある。あれじゃ子供でも泣き入れんやろう。さすがは日本の天皇陛下のお膝元や品が違う。
これは後から聞いた話やが、
ワシが追い込んだドイツ人は、再び日本に来た時、成田空港から大使館に電話かけて
「ジャパニーズ・ヤクザ怖いから機動隊を頼む」とゆうたらしい。
 日本のヤクザはちっとも怖いことはない。
おまえが筋さえ通せば、ワシら何も手出ししない。こないゆうてやりたいわ、ほんまに。

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