●18.バクチの後始末で小指を詰める

ワシ、小指が2本ないんやが、実は、バクチの後始末で指詰めたんや。
その頃、本家の諏訪組と四国のある組織が、政治兄弟いうか、
同盟みたいなもんやが縁を組むことになった。
そういう時は諏訪組のだれかと、相手の組織のだれかが兄弟盃交わす。
それで、ワシの親分の淡路会の会長が、兄弟盃の相手に選ばれたいうわけや。
ワシの親分の兄弟ゆうたらワシのオジキになる。ワシもこのオジキには特に大事にしてもろうた。
そないしたら、オジキが「どんなシノギやっとる」とワシに聞いてくれた。
「野球やってまんねん」ゆうたら、「そうか、うちの客もやる」とゆうて大口の客を紹介してくれた。
四国からやから銀行振り込みや。銭ボンボン振り込んでくる。
ワシも勝ち金はしっかり払い込んでおった。
そないしておったら、ウチンとこの若い衆が、その金を持ち逃げしてしもうた。
3000万円はあったんとちゃうか。
しかも、そん時、運の悪いことに、四国の客がガッポリ勝ちよった。
金を持ち逃げした若い衆も負ける計算してへんのや。親も親なら子も子や。
 どない段取りしても、勝ち金が払い込めん。運悪く、翌日は土曜日やった。
土曜やから午前中までに払わんと義理欠くことになる。
ワシは懸命になって金策したが、そないすぐ何千万円もの現金あらへん。
バクチの金は、少し遅れても払ったからって済むもんやない。
カラスがカー、スズメがチュンが決まりや。
つまり、宵に勝ったバクチの金は、朝、一番に届けなならんちゅうことや。
このままやったら、四国の客に不義理するし、それ以上にオジキや親分のメンツ丸つぶれや。
金持ち逃げしたもん探す余裕もない。そないしてたらタイムリミット(銀行閉店)。や
 ヨシッ!ワシが腹くくるしかない。今、思うと事情を親分や四国のオジキに話したら、
わけなく許してもらえたろうが、ワシの性格がそれを許せん。
 そん時の精一杯の結論は、「身を捨てて浮かぶ瀬もあれ」というこっちゃ。
 ヘタ打って指切るのも、切った指で生かすこともある。
逃げたもんは後でつかまえてケジメ取ったらええ。
そないゆうても、やっぱり指切るときは、ドキドキした。それまで人の指切ったことはあったが、
自分のは初めてや。
 映画なんかじゃ、指切る作法みたいなもんがある様に思われているが、そんなええ格好ちゃう。
「オイ!台所から、まな板持ってこい!」
「大工の使うノミ買うてこい」とこんなもんですわ。
医者にも行かず四国へ飛ぶ
若い者に台所のまな板と大工の使うノミを用意させた。
小指に、「あんじょう成仏してくれ」
と心の中でつぶやいて、ちょっと口に含んで、湿り気をつけて、まな板の上にきっちりのっけた。
小指の第一関節にノミの刃をあてて、金ズチ持った若い者に、
「ヨシ、いったれ!遠慮せんと、目いっぱいひっぱたくんや」と腹の底から声を出した。
大きい声を出すんは、気合い入れるためや。けど、瞬間は目ぇつぶったんとちゃうか。
 そないしたら、小指が、ピューッと飛びよった。これが親分の分や。
ところが、飛んだ指が見つからない。どこへ行ったか分からへん。
「コラッ!痛いのに探さんかい!」
若い者に探しださせて、白いハンカチに包んで、もう一方の手の小指を出して、
「オイッ、次はこっちや」若い者はびっくりして、
「もうこっちだけは、やめといておくんなはれ」ゆうんですわ。
「エエイッ、切れ!こっちは四国のオジキの分や!」
こうと決めたら止められん。はんまに、ワシはアホな性格しとる。
 ところが、もう一方の小指は切っても、飛ばへんのや。
片一方は勢いよく飛んだが、同時にもう一本切ったら、それは飛ばへん。
人間の体ちゅうのは不思議なもんや。これは指切ったもんでないと分からん。
 痛いゆうが、痛いのなんて分からん。輪ゴム巻いて、止血して、包帯巻いたが、カッカッとうずく。
医者に行くのはカッコ悪い。若い者に痛み止め買いに行かせて、このまま四国へすぐ行くことにした。
若い者に飛行機の予約入れさせておいて、ワシはまず親分のとこへ先に行った。
 親分は、「なんやッ」とそれはびっくりしとった。
「親分、バクチの金を若い者に持ち逃げされて、四国のお客さんに払えなくなったんですわ。
えらい不細工なことで済んまへん」
そないしたら、親分、涙ポロポロ出して、泣きよるんじゃ。
「何でそんなことオレに言わへんのじゃ」ワシはワシで考えがあった。
金を持ち逃げしたガキら、捕まえて死ぬほどブチのめしたると。
「親分、ヘタ打ちました。とにかく四国へ先に行ってきまっさ。
親分の顔つぶさんようにちゃんと話してきまっさかい、辛抱しておくんなはれ」とそない言った。
親分は泣きながら、「バクチの金やったらオレが儲けた金がある。その金持っていけ」
と言ってくれた。
「そういうわけにはいきません」
「分かった。それでええ」親分の顔は、涙でグチャグチャやった。
 それで若い者一人連れて、四国へすぐに飛行機で行った。
手を心臓より下にしたら、うずいてしようがない。
両の手胸より上にかかげて、飛行機に乗ったら、みな見よる。みっともない話しや。

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